固定残業代制で想定しておくべき問題と対応
弊社では,残業代の未払がないようにするために固定残業代制を導入しています。固定残業代制の場合に想定しておくべき問題としてはどのようなことがありますか?
固定残業代制を取り入れる場合でも,その定め方によって固定残業代制と認められないケースもあります。固定残業代制とは「どういう制度か」,「これまでどのような点が問題となったか」,「固定残業代制の注意点への対応」,「固定残業代制の廃止」という内容について、ポイントをまとめてご説明していきます。
どんな制度か?
簡単にいうとあらかじめ一定時間分の定額の残業代を支給する制度です。
労働時間にかかわらず,一定額を支払っていれば大丈夫でしょうか?
長時間労働の残業代を固定残業代でカットできる,というものではありません。固定残業代のメリットは次のような点にあります。
固定残業代のメリット
固定残業代は,残業時間が一定時間分までのものを固定の手当とする制度です。
企業として残業代を抑えるための制度ではありません。労働者間に同一の労働を処理する時間に差があっても残業代に差がつかないため,仕事ができないほど残業代が多くならず労働者間の公平感が制度のメリットになります。
企業にとっては残業代計算の手間が減るという面がメリットとされていますが,労働時間管理のシステムで簡便化されていれば,さほどのメリットにはならないかもしれません。
募集の時に収入額が残業代を含めて大きく見えるという面はあるかもしれませんが,近時は,募集時の記載事項に制約があるので注意が必要です。
どのような点が問題となったか?
固定残業代制に関してはたくさんの裁判例があります。
たとえば一定時間分を超えた場合に残業代の支払が必要か?
どのような定め方をしていれば固定残業代としての支払が認められるのか?
何時間までの固定残業時間が認められるのか?
などの点が問題となりました。
固定残業代制のもとでも固定額以上に残業代が発生する場合があるんですね。無駄に感じる残業代の発生ををなくせると思いましたが,そうではないのですね。
固定残業代は一定時間分の残業代を固定で支払うものですので,想定している時間を超えた残業があれば,残業代が発生します。
もし求めていない残業がなされている状況なのであれば,残業をしないよう指導をし,残業命令を出さない対応をお勧めします。
固定残業代制の注意点
- 固定残業代制をとっていても労働基準法により労働時間を把握し,管理する義務があります
- 固定残業代制をとる場合には,固定残業代を除いた基本給の額,固定残業代に関する計算方法を明示しておくべきです。
- 固定残業代を除いた基本給の額が最低賃金を下回らないようにする必要があります。
- 基本給が違えば同一の固定残業代に含まれる時間外労働時間が社員間で異なります。
- 時間外労働の上限規制への配慮が必要です。
固定残業代制の注意点への対応
固定残業代制で固定残業代と認められないと残業代の支払が必要になってしまうので,しっかり定めておくことが必要ですね
固定残業代制を導入済みの企業などでも修正が必要なケースがあります。
実際に運用するの難しいのかもしれませんね。
具体的な対応
- 人材募集の際には固定残業代を除いた基本給の額,固定残業代に関する計算方法を明示しておく必要があります。
- 固定残業代制で支払われる一定の残業時間に関しては,中小企業でも2020年からは時間外労働の上限規制が導入されていますので,それを踏まえると月30時間を上限にするのがよいと思います。
- 固定残業代が長時間に設定されている場合は就業規則の改定などが必要になるケースもあると思います。
固定残業代制の廃止
実は残業時間が減ってきたので固定残業代制を廃止することも検討しています。廃止して基本給と残業した分だけの残業代の支払に変えることは簡単にできますか?
たとえば固定残業代制のもとで残業をしていなかった労働者は,労働実態が変わらないにも関わらず基本給だけとなる可能性があります。不利益変更に該当すると判断されるケースが多いと思われますので,労働契約法10条の要件を満たすように,変更後の就業規則を労働者に周知、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性など合理性があることが求められます。
従業員の不利益の緩和策なども含め専門家に相談することをお勧めします。
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